最近はタトゥー(刺青)がファッションとして認知されつつあり、タトゥーを入れた若い人を目にする機会も増えたように思える。
また、掲示板などでもタトゥーに関する議題がよく挙げられているが一度は見たことが、
あるのが「それはタトゥーではなくて、刺青だ。」といった指摘である。
果たしてその指摘は本当に適切で、「タトゥー≠刺青」なのだろうか?
今回DOTTでは、そういった世に蔓延る適当なイメージをバッサリ切り捨て、”明確な線引き”を見出すべく解説を行っていこう。
まず、これから下記にそれぞれの語句の歴史、使われ方などを解説していくわけだが、時間の無い方のために結論だけ先に述べる。
「現代で使われている、”刺青と入れ墨とタトゥーの明確な線引き”は無い。ただ言葉の生まれ方や、当初の用途が違ってくるため”本来の用途は違う”」という結果に至った。
また、言葉の生まれた順番としては「彫りもの→入れ墨・黥→もんもん→刺青→タトゥー」であった。
では、これからそれぞれの語句ごとに分けて歴史をご紹介していく。
ConTTents
刺青を表す言葉
まず、定義もまだ決まっていないながら、早々「刺青」や「タトゥー」という言葉を使ってしまったことをご了承頂きたい。
現在日本で「装飾目的で、皮膚に針等を用いてインクを入れる行為」を表す言葉として、挙げられる主な語句は以下の通りである。
- タトゥー
- 刺青(いれずみ・しせい)
- 入れ墨(いれずみ)
- 彫りもの
- もんもん
- 黥(げい)
筆者の個人的な”頻繁に見聞きする順”で羅列させてみたが、まずは「タトゥー」という言葉の歴史・意味から解説していこう。
※また、今回の解説では全て、「アートメイクを除く」とさせて頂く。
タトゥーという言葉
現在「タトゥー」という言葉を聞くと、主に洋彫りを思い浮かべる方が多いのではないだろうか。
まず、タトゥーという言葉の歴史、また定義、日本での位置づけなどについて詳しくご紹介していく。
歴史・語源
タトゥーという言葉が広まった時期・歴史については諸説があり、正確な時期を名言するのは難しい。
しかしタトゥーの語源が「タタウ」というタヒチ語に由来している、ということが分かっている。
タヒチ(タヒチ島)は、古来よりポリネシアンタトゥー、トライバルタトゥーが盛んな地域だったことが知られている。
詳細については「7つのトライバルタトゥー」を是非ご覧頂きたい。
ちなみに、日本で「タトゥー」という言葉が使われるようになったのは1900年代後半、海外のバンドが日本で流行るようになった頃からである。
意味や用途
日本での「タトゥー」という言葉の明確な線引きは無いが、「装飾目的で身体に針等を用いてインクを入れる行為全般」を指すとして構わないだろう。
種類、場所に問わず、そのような装飾は全てタトゥーなのである。
ただ、この意見に苦言を呈する彫り師の方々もおり、”小さいワンポイントで描かれたもの、洋柄のもの、人に見せるものがタトゥー”と定義する者もいる。
刺青(いれずみ)という言葉
次に耳にする語句が、刺青(いれずみ・しせい)では無いだろうか。
ではこの語句の歴史や意味を紐解いていこう。
歴史・起源
そもそも「刺青」という言葉は、作家”谷崎潤一郎”が造った「造語」である。
「刺青」は1910年に同人誌に掲載された彼の処女作であり、当時の読み方は「しせい」だ。
谷崎氏の書いた「刺青」について書き始めるとキリがなくなってしまうため、一行で述べるならば、”彫り師が女の背中に女郎蜘蛛を彫る話”といったところだろうか。
谷崎氏の「刺青」が人気を博し、後に「いれずみ」という読み方がされるようになったわけだが、そこから「入れ墨」という言葉は既に存在していたということが汲み取れる。
意味や用途
今日本で刺青とタトゥーを区別する明確な線引きは存在せず、広辞苑を見ても「タトゥー=刺青」となっているのが現状である。
そのため語句としては刺青も”総称・全般”という扱いになる。
しかし刺青ときくと和彫りをイメージする方も多いことから、「刺青は和彫りのものだけ」と定義する者も多い。
参考記事:和彫りの意味やデザイン−日本伝統の刺青に迫る
入れ墨という言葉
では読み方が同じ「入れ墨」はいつ生まれた言葉で、どのような意味合いだったのだろうか。
これが意外にも今のタトゥーとは違う意味で用いられていたのである。
歴史・起源
「入墨」というのは装飾目的のタトゥーとは違い、”刑罰”が目的である行為を指す言葉として生まれた。
1720年、日本は当時の中国を参考に、犯罪者に入れ墨を施す”入墨・黥刑”の制度を施行した、という文献が残されている。
当時の刑罰については詳しく別記事でご紹介する予定だが、顔に”犬”と彫っていく刑罰や、腕に一本線をいれるものなど様々であった。
意味や用途
現在日本では、入れ墨と刺青に使われ方の違いはない。
そのため、入れ墨と刺青とタトゥーは全て同義に、”総称”として用いられていることが多いだろう。
しかし彫り師の中にはその歴史を知っているが故、入れ墨と呼ばれることを嫌う彫り師もいる。
彫りものという言葉
現在の日本の刺青のような文化は、江戸時代 初中期(1600年代前半〜後半)頃から始まり、同時に「彫りもの」と呼ばれるようになった。
彫り物は火消しや鳶など、服を脱ぐ機会のある職につくものに装飾目的で好まれ、今とは少し違うワンポイントのデザインが多かったようだ。
しかし精神性という面では、現在の日本の刺青の根底にあるものが既にあり、今でも「入れ墨(刑罰)と呼ばず、彫りものと呼んでくれ」という彫り師もいるくらいだ。
ちなみに「彫りもの」は、現在あまり使用されないが、和彫りのみを指して彫り物と呼ぶことが多い。
もんもんという言葉
紋々(もんもん)は「倶利伽羅紋々(くりからもんもん)」という言葉が由来で、そこから刺青全般に使用されるようになった語句である。
現在の日本では、もんもんは大阪の俗語だとされ、関東でもんもんという言葉を用いていることは少ない。
意味としては和彫りのみだと定義する者が多いだろう。
また、倶利伽羅紋々とは、”背中に倶利伽羅竜王を背負った刺青”のことを指す。
背中などに大きなモチーフ・図案を彫るようになったのは凡そ1800年代初期からだとされていることより、語句の年表が浮かび挙がってきた。
結論・まとめ
以上のことをまとめると、現在用いられている語句の意味は下記のようになる。
・タトゥー
洋彫り・和彫りを問わず総称だと定義されるが、現在は主に洋彫りを指すことが多い。
・刺青
タトゥーと同義で総称だと定義されるが、現在は主に和彫りを指すことが多い。
・入れ墨
本来の用途は刺青と違い刑罰だったが、現在は刺青と同義で用いられる事が多い。
・黥(げい)
入れ墨と同様に元々は刑罰に用いられてた言葉。現在はあまり使われない。
・彫りもの
本来の用途と同じく現代まで引き継がれる、和彫りを指す語句。
・もんもん
本来は特定の柄のみを指す言葉であるが、現在は主に大阪地方で使われ和彫りのことを指す語句。
つまり「タトゥーではなくて刺青だ!」「犯罪者の証だ!」という指摘は完全に間違っているわけではないが、現在は「タトゥー≒刺青」として扱われることが多いのが現状だ。
また歴史を遡っていくと、言葉の生まれた順番は、
「彫りもの→入れ墨=黥→もんもん→刺青→タトゥー」だとされる。
いやはや、言葉というのは奥が深く、歴史を投影する非常に面白いものだと、再認識させられる。
和彫りについては下記記事でご紹介しているため、是非参考にして頂きたい。
和彫りの意味やデザイン−日本伝統の刺青に迫る
和彫りとは?和彫りのデザイン・図柄の意味を徹底解説。 日本伝統の刺青・タトゥーのデザイン・図柄には龍や般若、守護本尊は勿論、鳳凰、亀、蛇。多くの種類が存在します。
では、良いタトゥーライフを!