あなたは「サクヤン」というタトゥーと呼ばれるタトゥーをご存知だろうか。
タイにルーツを持ち、長い歴史と伝統が守られてきたサクヤンは、そのデザインや強い精神性から世界的にも注目されているタトゥーのスタイルの一つである。
しかし、その実態は「伝統」という言葉に雲隠れしており、漠然とした凄みを感じるも「サクヤン」たるを明確に説明出来る者は、日本には少ないだろう。
「本当のサクヤンとは何か」を解明すべく、今回DOTTでは実際にタイに足を運び、伝統のサクヤンを彫るサクヤンマスターへ取材をしたため、本内容を記事にしたい。
これから日本でサクヤンを入れようとしている方も、そもそもタトゥー自体に興味がある方も、是非最後まで読んで頂きたい。
ConTTents
サクヤンとは
まず本題に入る前に、一般的にサクヤンとはどのようなものを指すのかを、ざっと説明してみよう。
タイ伝統のタトゥー|サクヤン
「サクヤン(Sak-Yant)」は、「サク(Sak)=刺青」「ヤント(Yant)=ヤントラ」を意味するもので、※ヤントラを、消えないように身体に刻むもの。
※ヤントラ=魔法や神聖なものの図形、魔除けや幸運などの守護効果を持つ。
つまり「守護効果を持つデザインをタトゥーとして身体に刻み、災厄から身を護るもの」として「御護り」に近い感覚で人々には知られている。
サクヤンのデザインと意味
サクヤンが人気を誇る理由の一つが、そのデザイン。
伝統のモチーフや、クメール文字やサンスクリット寺などで構成され、「ハーテェウ」「ガオヨード」の名前のついた多様なデザインがある。
そしてデザインにはそれぞれ「魔除け」「仕事運」「恋愛運」など、異なる効果があるとされており、サクヤンを彫られる者に適したデザインを、伝統のサクヤンの彫り師が選ぶ。
サクヤンの彫師|僧侶・アーチャン
この伝統のサクヤンの彫れる者は限られており、仏教徒のお寺にいる僧侶や、サクヤンに対する高度な知識と技術を持つアーチャンと呼ばれる者などの、「サクヤンマスター」にしか本当のサクヤンは彫ることが出来ない。
無論、「サクヤン風のデザインのタトゥー」は、タトゥーアーティストであれば誰でも彫ることが出来るが、サクヤンを彫るというのはそういう意味ではない。
タイ伝統のタトゥーサクヤン−図柄の意味や衛生?値段は?
サクヤンの図柄・デザイン・モチーフの意味は勿論、サクヤンをいれようと考えている方に向け、料金の相場や衛生管理等の注意点について徹底解説。
伝統のサクヤン|施術方法
というのも 「サクヤンを彫る(ヤントを彫る)」というのは、一般的にタトゥーと呼ばれるものとは、施術方法がまるで異なるためである。
タトゥーイングに使用するものは「メタルロッド」と呼ばれるステンレス製の長い棒で、1.2名の弟子が肌を引っ張りながら、サクヤンマスターが手彫りで施す。
加えて、タトゥーイング前と、施術が終わった後には「祈り」が必要であることもサクヤンの最大の特徴。
施術後、金箔を身体に貼り付け、短いお経を唱え、サクヤンマスターがヤントに息を吹き込みサクヤンの全行程は終了する。
伝統のサクヤンを取材
サクヤンを知ってから、例の如く取材欲に掻き立てられた筆者は、実際にタイに足を運び、伝統のサクヤンマスターへ話を聞かせていただける運びとなった。
タイ・バンコクのオンヌットと呼ばれる地域のサクヤンマスター「アーチャンネンオンヌット」は、現代のサクヤンに対する想いと、サクヤンの本当の意味について下記のように語る。
サクヤンとは何か
「—アーチャンである私の立場からするサクヤンというのは、御守りでもありますが、「宗教の教え」でもあります。
サクヤンを彫った後、彫ってもらった人間は戒律(ルール)を守らなければいけません。
例えば嘘をつかない、両親には悪いことをしない、両親やアーチャンを尊敬しなければいけない等、つまりつまりサクヤンというのは「彫った人に良いことをさせるもの」です。
戒律は大きく5つあります。」
- 人や動物の命を奪わない
- 金や物を人から盗まない
- 浮気をしない
- 嘘をつかない
- お酒を過度に飲まない
サクヤンに込められた力
「—サクヤンを彫って、その戒律を守った人には幸福が訪れます。
訪ねてくる人の中には「恋や仕事が上手くいかない」と言う人が多く、自分の問題に当てはまる御守り(ヤント)があるかどうかを相談しに来ます。
その場合、問題のサポートになるようなヤントを彫って「ヤントの戒律を守りなさい。」と伝えます。
例えば、会社で嘘をつかない人は、同僚や上司から信頼を得てどんな仕事でもやらせるように。
サクヤンは戒律を守って、ようやくその意味を成します。」
サクヤンの彫り師になるには
「—まずは、サクヤンやタトゥーが好きであること。
次にサクヤンの文字はクメール文字、サンスクリット語や、昔使われていたタイの方言等を用いているため、それらに対して勉強をする必要があります。
最後に、弟子やサクヤンを望む人に対して「良い教えを説ける人」でありながら、自分も人に説くサクヤンの戒律を守れる人でなければいけません。」
マシンで彫るサクヤンとの違い
「—タトゥースタジオで、マシンを使ってサクヤンを彫るアーティストは、宗教を学んだことのない人が多いです。
そして文字も読めなく、抱える問題とデザインが適しているかも分からず、ただ「幸福が訪れる」とオーバーな表現を伝えて「サクヤン風のタトゥー」を彫ります。
サクヤンには、神秘の力なんかありません。
一番大切なのは、彫ってもらった後にルールを守ることと、守らせることです。」
本当のサクヤンとは
「—本当のサクヤンとは、人を正しい方向に行かせるものです。
今では本来の伝統のサクヤンは少なくなり、20代の彫り師たちがサクヤンのことを勉強せず、サクヤンを彫ったりもしています。
このこと自体には反対ですが、ただ自らの技術を駆使しているだけであって、彼らも悪いことをしているわけでない。
自分に出来ることは、このタイの伝統のサクヤンを続けて、伝統を守っていくことだと思っています。」
考察
私は今までタイにおけるサクヤンは、御守りで、魔法の力があると信じられている、所謂「宗教のソレ」の類だと信じ込んでいた。
しかし箱を開けてみるとサクヤンは「戒律」であり、それも「家族を大切にする」や、「嘘をつかない」など人として当然守るべきルール。
サクヤンマスターの語った「サクヤンに神秘の力はない」というのが真理であり、人としてのルールを守れば、不幸から免れることが出来るという、意外にも合理的なものだということが分かった。
ただ、これらはタイの方々の仏教の神々や僧侶、サクヤンマスターへの、本心からの尊敬の念があり初めて成り立つものである。
サクヤンの魅力を感じるのと同時に、タイの方々の宗教に対する信仰心の強さも感じさせられた取材となった。
まとめ
いかがだっただろうか。
今回は、タイ伝統のタトゥー「サクヤン」について、実際のサクヤンマスターに伺った話を通して、ご紹介してみた。
地域特有のタトゥー・刺青はタイのサクヤンだけではなく、筆者は以前フィリピンの秘境へ足を運び、カリンガトライバルのタトゥーを体験取材したことがあるため、この記事が面白いと感じた方は是非こちらも。
トライバルタトゥー手彫りの旅|フィリピンの秘境・カリンガにて
今回は、筆者である私が、フィリピンの秘境・カリンガにて、なんと御年100歳のタトゥーアーティストに会い、そこでタトゥーを入れた際の話ができればと思う。 「トライバルタトゥー 手彫りの旅〜カリンガ篇〜」と名付け、そもそもカリンガタトゥーとは?というところから完成の流れまで一挙に公開しよう。
では、良いタトゥーライフを!